東京都衛生局宛て要望書の回答議事録

注) この議事録は、東京LD連絡会の文責により作成したものである。

1. 日 時 2001年12月5日(火)10:15〜11:50

2. 場 所 東京都庁第一本庁舎33階特別会議室N1

3. 出席者

衛生局 ; 病院事業部経営企画課長/同企画係長

健康推進部母子保健課長/同母子保健担当係長

医療計画部医療計画課計画係長

医療福祉部精神保険福祉課精神保健係長

医療福祉部医療福祉課医療調整係長/同医療調整主任

東京LD連絡会 ; にんじん村8名 くじら3名 けやき1名

4. 議事概要

【 1 】 都立病院改革の趣旨及び概要

 病院事業部 経営企画課長

要望書の回答の前に、都立病院改革が何故始まったのか、今後どういう方向を目指していくのか、総括的な説明をしたい。

昨年6月、東京発の医療改革を是非進めていきたいという石原知事の意向を受け、今、都立病院の改革というものが注目を集めている。その背景には、少子化、高齢化、都民の方々の医療ニーズの大きな変化、医療の進歩、また難病等の発生などがある。それを受け、従来都立病院が担ってきた役割をもう一度見直す必要があり、都立病院改革は始まった。

都立病院改革というと、どうしても再編整備の事がつい先行してしまいがちだが、それだけでなく、東京ERの推進、患者の権利章典の策定も含まれている。要望に一番関連のある都立病院の再編整備の関係では、都立病院改革の一環として、昨年の9月12日に学識経験者、区市町村の代表の方、都民の代表の方など広範囲から20名の委員にご参加いただき、都立病院の役割、今後の再編整備のあり方、そして財政面とこの3つを主要項目として、検討が始められた。

報告等については、すでに新聞等でご案内の通り、7月13日に都立病院改革会議から報告を頂いた。この会議の位置づけは、知事の諮問機関である。よって、報告が100%イコール行政の施策と言うわけではない。しかし、知事の諮問機関であることを含め、知事は最大限尊重する意向なので、これを基本として行政の施策を策定していくことになるだろう。

報告の内容をかいつまんで説明すると、都立病院の役割については、従来は、高度専門行政的医療、高次難病を担うと言うことであるが、非常に分かりづらい。都としては、医療の分野に着目して、新たに行政的医療と位置づけた。この中には、法令等に基づき行政が担う医療としては、救急、結核、精神科、小児特殊精神も含まれている。新たな医療への都立病院が対応すべき医療としては、エイズ、アレルギー、ターミナルケアが提言された。

基本的に対象になる方々は、全都急性期の患者さんである。都立病院の都内に占めるベッド数は、都内総病床数の6%に過ぎない。従って、都立病院ですべてのソフトの医療を担うのは現実的には困難なので、まず機能を集約した上で、その集約した機能をそれぞれネットワークを充実することによって、変化をさせていこう、そういう考え方から、再編整備の形が提案された。

具体的には、現在ある福祉所管の2つの老人医療センターを含める16の都立病院を12に編成した上で、都の直営の病院を、広域機関病院2つ、センター的機能病院6つの計8つの病院に再編成する。また、残りの4つの病院については、地域医療支援の拡充という観点から、地域病院として位置づける。更にそのうちの1つ、板橋にある豊島病院と王子医療センターを統合した上で、高齢者医療を広く民間にも普及させる必要があるという観点から、運営を民間の医療機関に委ねるとの提言があった。この提言を受け、2001年内をメドに、都立病院改革会議の報告を基にして、行政としてのマスタープランを策定していきたいと考えている。

マスタープランで、全てが決まってしまうと、思われる方もかなりいると思う。皆さんが、一番心配していることは、すぐにでも再編整備がきまってしまうのではないか、また、要望団体から意見を十分聞かないうちに、行政が勝手に決めてしまうのではないかと言うことだと思う。しかしマスタープランがスタートなのである。例えば、要望書の中にもある八王子小児病院、清瀬小児病院、梅ヶ丘病院の3つを統合して、府中キャンパスといっている府中病院に隣接した地域に、小児の総合医療センターを設置すべきだという提言がある。しかし、これはハード的な問題もあるし、3つの病院が移転することによって、現実に地域医療に果たしてきた機能の役割をどうするかは、これから検討していかなければならない。

1年や2年で再編整備が全て出来るのではなく、かなりの長期のスパンをかけて、1つずつ再編整備をやっていくことになるだろう。従って、この場で全て決まるのではなく、これからも様々な機会をとらえて、ご要望も当然受けることになると思うので、ご意見を参考にしながら、都民の方々が安心できる医療制度改正を今後構築していきたいと考えている。

【 2 】 回答内容

I 要望事項

1 都立梅ヶ丘病院の小児総合医療センターへの移転統合について

(1) 再考していただきたい。

(2) 万一、再考できかねる場合であっても、以下のことをお願いしたい。

ア 梅ヶ丘病院が担っている機能をすべて小児総合医療センターに移転統合するのではなく、世田谷地域等近隣地域の通院患者への配慮と、養護学校等近隣小中学校との連携の継続のため必要な機能については、梅ヶ丘病院に残留してほしい。

<回答> 現在マスタープラン作成中につき答えられる段階ではない。

イ LD/ADHDの専門外来の強化と療育訓練、精神療法、カウンセリング等の枠の拡大を継続してほしい。

<回答> 枠の拡大は、現在の施設及び機能の中では難しい。ドクターも、病院の診療だけでなくいろいろ講演会にも参加し、LD/ADHDに対応している。このような中で、当面拡大はなかなか困難である。また、マスタープラン作成の中で、個々の病院が具体的にどうなるかについては、まだ描ききれていない。細かい機能を、行政で一方的に決めてしまうことはできないので、このような要望は、具体的な機能を決めていく中で検討していきたい。

ウ 初診までの待機日数の短縮、診察待ち時間の短縮、丁寧な診察、インフォームド・コンセント等の改善をしてほしい。

<回答> 初診までの待機日数短縮に関しては、昨年と変わっていない。(イ)の答えと同様、なかなか現行の施設の中では難しい問題で、特に、新患に関しては、かなり時間をかけないと正確な診断が難しい。また、療育に関しては、適切な対応が難しい。

インフォームドコンセントに関しては、もし何か不適切な例があれば、私どもから病院に伝えて行きたいので、お知らせ頂きたい。都立病院は、患者の権利章典を今年の一月に出しているが、その中でもインフォームドコンセントの重要性を謳っている。ドクターにもいろいろいるので、患者から見て不適切な例があれば、改善に向けて努力していきたいと考えているので意見を出して頂きたい。

エ 小児精神医療の分野において、各科の連携がスムーズに行われ、1人の子供を総合的に診断し、ケアしていくシステムを作ってほしい。特に、最近脳科学の進歩はめざましいものがあるので、多面的な検査のできる体制を望む。具体的には、脳神経科、心療内科との連携、また読み書きの障害等については、眼科、耳鼻科との連携を希望する。

<回答> 現在、梅ヶ丘病院は、精神科のドクターが中心なので、総合的に診断し、ケアしていく範囲には限界がある。これは、都立病院改革会議報告の中で、提言内容が実現されれば、各科の連携がかなり充実されるはずと考えている。例えば、眼科・耳鼻科は今まで小児病院としては根底に無いが、府中病院に隣接されると、府中は総合病院なので、そのようなドクターがいる。そうなれば、必要な時に連携できるのではないか。

また、総合センターが実現すれば、府中には神経系専門医も多数いるので、連携ができるはずである。小児総合医療センターの考え方は、今までの小児専門病院で不足していた部分の課題解決に繋ぐことができるという観点から、提言されたと理解している。

オ 障害の早期発見、早期療育に向けてネットワークを構築すべきである。(一般病院診察場面でのチェック体制と専門病院と療育機関との連携を強化してほしい。)

<回答> 現状では、梅ヶ丘病院でかなり努力しているつもりだが、一つの医療機関という位置付けのなかでは早期発見・療育にも限界がある。

行政としての係わりの中で、梅ヶ丘病院としても協力していくように考えている。

健康推進部としては、地域での乳幼児健康診断で、発達の遅れが認められた場合や、多少不安のある場合には、心理相談員による相談、または、小児精神科医の発達の健康診断等を行っている。

専門医療機関での専門精密検査は別とし、診断を受け必要とあれば、専門機関の紹介を行ったり早期発見と療育を協調していく。

今後東京都は、乳幼児検診・発達検診でこういった疾患の早期発見を円滑に実施できるように、現在それに係わるスタッフにはLD/ADHDに対する知識を持ち、今後保母・幼稚園の先生を対象にした母子保健婦研修で、LD/ADHDに関する情報援助を行っていく。

また、母子保健課のホームページを通してもLD/ADHDについての情報を掲載し啓発している。

カ 社会的要請でもある小児及び思春期に対応する、小児精神科ベッド数を増設してほしい。

<回答> 入院患者の待ち時間が問題になっており、ベット数を考えている一方で、改革会議・マスタープラン作成の中でのドクターの意見は、精神疾患に関しては、基本的にベットを増やし囲い込むのではなく、できるだけ地域の中で、治療すべきという意見である。今後のマスタープラン作成の中で話し合っていくべきと考えている。

キ 医療機関に通うのに困難をもつ障害児、乳幼児に配慮してほしい。具体的には、待ち時間を短縮する工夫、多動等の困難をもつ児童への対策、幼児を連れていても楽に通える体制(直通バスの運行)を望む。

<回答> 専用バスについて経営問題・財政面からいうと、都立病院は、都民からの税金をかなり投入しているが、基本的には独立採算制をとっている。公共の福祉と効率性を両立させる医療会計の中で、直通バスの運行までは、一つ一つの病院で考える範囲を超えていると言わざるを得ない。

ク CTスキャン、MRIなど脳の基本的な検査を行えるようにするとともに、一般医療機関では検査のできないf−MRI等先端的な検査機器の導入をしてほしい。

<回答> 都立病院改革会議報告にあるような、総合的な医療センターを府中に作るようになれば、府中病院には既にCTスキャン・MRIなどはあるので、共同利用が可能になると考えている。小児医療に関しては、必要性は認識しているが、それほど使う頻度は高くないので高額な医療を有効に使う為にも、共同でと考えていく。また、f−MRIについては、具体的な病院のイメージを固めていく中で検討していくべき課題と考えている。

2 都立清瀬小児病院と八王子小児病院の小児総合医療センターへの移転統合について

(1) これらの小児病院の廃止は、地域の住民に多大な影響を与えるので、再考していただきたい。

(2) 万一、再考できかねる場合であっても、小児医療と小児精神医療の拡充を切に望むものであり、以下のことをお願いしたい。(梅ヶ丘病院の移転統合問題の関連も含む)。

ア 小児科医の減少が社会的な問題になっている現在、東京都立病院の地域医療での役割を無視することはできない。統廃合の行われる地域には、何らかの形で代替施設を設置すべきである(一部1(2)アの再掲))。

<回答> この場では、差し控えたい。

イ LD、ADHD、高機能自閉症等一般病院で診断できない新しい発達障害の問題が時代的課題となっている。また、不登校、引きこもり、摂食障害、家庭内暴力、校内暴力等の児童精神の課題も山積している。早期に発見し、ケアしていくシステムが社会的に求められている。将来を担う児童の健全育成と自立をめざし、更なる充実を図ることが急務である。

(小児精神医療は新たな医療課題であるとともに、一般の医療機関での対応が困難な医療であり、現状において量的に不足している医療でもある。また社会的要請から特に対策を講じなければならない医療である。)

<回答> 小児精神医療は、都立病院として対応していくべき問題と考えているが、一医療機関では限界がある。また、行政・衛生局だけでも対応できない課題だと思う。各関係局も含めた政策の中で、梅ヶ丘(都立病院)としても、協力していく立場であると思う。

保健所での小児精神科医による療育相談、或いは、保健婦の訪問指導も引き続き実施していく考えである。また、スタッフに関しても単なる病名だけでなく、如何にLD/ADHDを理解し対応するかの研修も実施している。今年度は、12月23日茗荷谷にある研修センターで、梅ヶ丘病院の市川先生による研修を行った。申し込みが非常に多く、1月23日に再度都民ホールで、同じ題材で研修を行う予定である。

ウ 小児医療、精神科医療の診療報酬が少なく、経営的に成り立たないならば、採算が合うように制度を改革しなければ問題は解決しない。採算が合わないからと、病院を減らすことより、東京都としてこのような制度自体の改革を政府に働きかけていただきたい。

<回答> 小児医療で救急医療がかなり厳しいと言う状況が報道されている。小児救急は医師の数が不足している。その原因は、現在の小児科診療報酬制度では、不採算であるという点だが、長くはかかるかもしれないが、改善されないと抜本的な改善は図れないので、次のように国に提案を行っている。

(1) 診療補修制度の抜本的な改善をして頂きたい。

(2) 小児医学のカリキュラム、小児救急医学のカリキュラムの整理・充実等で小児科医師の要請確保を図って欲しい。

以上を、東京都全体の国への予算要望の中でも、重点要項として取上げられているので、今後も要望を続けて行く。

精神障害者の保険福祉政策を、総合的に推進する為に様々な施策に取組んでいる。精神障害者が適切な治療を終わって地域に戻って来た時に、通常の生活に戻りやすいような社会福祉施設とか補助が受けやすい状況を作ることが必要である。特に、精神科の医療対策についても、充分な診療報酬に引き上げて欲しいと国に働きかけていく。

3 母子保健院の廃止について

○ 再考いただきたい。

母子保健院は、ハイリスク乳幼児の障害早期発見に貢献し、地域の療育機関とのネットワークも機能していた。このような役割をもつ診療機関を地域に残すことが望ましい。

<回答> 母子保健院を残すかどうかは、マスタープランをご覧下さい。実際に、都立病院が現在遺留している機能を、どのようにして生かして行くのかも、考えて行かなければならない課題と考えている。

4 梅ヶ丘病院における学校との連携強化

(1) 梅ヶ丘病院において、現在小学生までしか行われていない指導、カウンセリングなどを中学生まで拡大して実施してほしい。

(特に、多動的な傾向のない子供の場合、学習面でのつまずきが中学生になるまで気が付かないこともあり、中学生からではただ診断を受けただけで何のフォローもできなくなってしまう。中学生からでも様々な助言や指導、カウンセリングは可能であるし、子供にとっては必要なものであると思われる。)

(2) 梅ヶ丘病院において、学校との連携を取るために、LD、ADHD、高機能自閉症等の診断が出た子供については、学校へ助言するような体制を作っていただきたい。

(診断が出ても、親からの報告では、普通学級の先生は何をどうすればいいのか、どのような配慮が必要なのか分からないことも多く、親の意見を聞き入れない先生も多い。子供の理解を深めるため、医師の説明は非常に効果的である。)

<回答> (1),(2)についてまとめてお話します。

かなり病院の具体的な診療機能に入った内容ですので、マスタープラン発表以降具体的な病院のイメージを作っていく中で、こういった意見を含めて検討が必要だと考えている。

病院側にこのような意見を伝えて現状で何処まで対応できるか、対応を考えて行きたいと思ってる。

II 質問事項

1 今後の改革の具体的スケジュールを知らせてほしい。いつプランを作るのか。その後どういう段取りで行われるのか。

2 病院に通院させている保護者の意見を聴かないのか。

3 プランはどのように発表されるのか。

<回答> 1,2,3の質問に対して:

マスタープランは、年内に発表したいと思っているが、これはスタートであるので、まだ、細部にまで言及できるものでない。あれだけの再編整備を一度にはできないので、今後10〜15年かけてどのようなスケジュールになるか青写真的なものは、出てくるだろう。

2については、衛生局や議会に関しても、かなりの皆さんからの請願・陳情を受けており、都議会議員の方にも住民からの意見がでているので、議会でも検討していく方向である。細部については、皆様からのご意見をお受けして詰めて行きたいと考えている。

<追加質問> 我々は、LDとその周辺の子供達の医療を通して要望を出しているが、今回の要望事項がどのような形で、いつ頃調整されていくのか、再度要望を出す時期を見極めたいので、そのタイミングを教えて頂きたい。

<回答> マスタープランとしては、都立病院全体の方針を考えている。但し、最終的には、再編整備になるので、今16ある都立病院一つ一つの細部に至る検討の段階ではない。この状況では、年内にプランが出ても、後は行政だけで突っ走る訳にはいきませんので、その都度検討を重ねていくことになる。

<追加質問> 地方分権の流れの中で、都と各市町村の役割分担や医療機関の施策は、都の衛生局が主導的に詰めて行かれるのか

<回答> 基本的には、都だけで詰めるのではなく、地元の区市町村と対等な立場で詰めていく。現在の保険医療計画の考え方は、地域に身近な医療となっており、区市町村が主体となって取組むという内容が盛り込まれている。

都と区市町村の区切りは、一概につけられないが、役割論で見ていけば、初期救急患者は、身近な区市町村が主体となって頂かないと、都の限られた医療資源の中では、すべての対応は難しい。

梅ヶ丘の場合には、不採算な医療ではあるが、都立病院の役割として重要であると位置付けさせて頂いている。移転ということで、問題が生じると思うが、小児精神医療については、都が先導的な役割を担ってやっていくべきと考えている。


※ マスタープランは12月21日に発表された。

※ この回答及び懇談の場で、小児科のある都立病院10病院に「LDってなんだろう」の小冊子を各2冊ずつ配布していただけることになり、病院事業部の窓口宛送付した。

※ 2002年1月23日の母子保健研修参加者にも配布をお願いした。

※ さらに研修参加者の中から希望のあった22機関、団体に10冊ずつ無料配布した。

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